去る11月19日、新宿ロフトプラス1にて 「ドクトルマブゼと恐怖の映画省」と題し、
第1部小中千昭、高橋洋両氏によるファンダメンタルなホラー講義が、
そして第2部は新谷尚之氏とソドム一味の面々を迎えて、
私の怖い映像大会、及び『ソドムの市』撮影裏話大会が行われた。
深夜興行ながら多くの方々にお越しいただく事が出来た。
深夜零時を回ってのトーク開始。
高橋にとってははるか昔「新耳袋」イベント以来の深夜興行です。 あの頃は体力があった...
小中千昭はバッチリレジュメまで用意してやる気満々、でも3時過ぎでバッテリーが切れるそうです。
話はおもむろに10年前、アテネフランセでやった心霊トーク・イベントの思い出から。
篠崎誠が仕組んだこのイベントは、心霊実話テイストなんてまだ誰も知らなかった時代に、
小中・高橋や黒沢清を壇上に上げて、まさに"新・恐怖映画宣言"をプロパガンダした記念すべき集まりだったのでした。
でもお客はほんと少なかった...
それがあれよあれよと<Jホラーブーム>にまで発展し...
今宵は感慨こもごも、アテネ・イベントから10年越しの続篇トークなのです。

小中著『ホラー映画の魅力』の表紙絵を飾っているくらいです。
でも、やっとDVDが出たので見直したら全然怖くなかったと、小中はあくまでクール。
ちなみに表紙絵の少女が手にしているのは鞠ではなく卵、 小中の執念が感じられるこだわりのデザインなのです。
一方、高橋の原体験はすでにあちこちで書き散らしたテレビに映った幽体のごときもの...
それが何であったのか、どうも『シェラデコブレの幽霊』の予告を見たのじゃないかという 推測があるにはあるが、
知り合いで唯一見ている万田邦敏はそんな場面、記憶にないそうです...

あの映画がいかにロバート・ワイズの確信犯であったか、我々を決定づけたか。
高橋は『たたり』のラップ音が、従来の"木が割れるような"ラップ音のイメージを不気味な振動音に映画的に作り変えた功績を強調。
このラップ音、『ソドム』でも鳴ってますが、普通鳴るようなところで鳴ってないので誰にも判んです。
ラップ音は小中千昭が重視する"館モノ"の系譜から言っても重要なアイテム。
『チェンジリング』のあのドーンと屋根裏部屋から響く音も怖かったよね、
浴槽で子供が殺された時の音なんだけど...

黒「『たたり』好きです」と話しかけたが、
ワ「あ、そう」で済まされたとか...
やっぱりこういう時は、中原昌也のように同じことをしつこく繰り返さないと駄目なのであろう。
中「『たたり』よかったですよ!」
「いやほんと最高ですよ『たたり』!」
「またやってくださいよ『たたり』!見たいですよ!」
「ほんとマジに応援してますから!」

小中千昭のレジュメは早くも崩壊した。
清水がハリウッドでどんな恐ろしい仕打ちにあったか、
"ハリウッド残酷物語"を期待していた高橋であったが、意外や製作はスムーズに進んだとか。
高「だから、『何がジェーンに起こったか』とか"ブラックダリア殺人事件"とか、ハリウッドの内幕残酷話ってあるでしょ、ああいうことはどうなのよ?」
清「え、そういうことが起こればいいと思ってたんですか?」
高「いや、そうじゃなくて、そういう恐ろしいことがあり得るリアリティとかさ、そういうことを僕は聞きたいわけ」
清「あ、なかったです」

清水の意図を最大限に生かそうと守ってくれたそうだ、 清水強運なり。
で、『稀人』の話に、小中のシナリオを読んで誰もが思い出したのは 『怪奇大作戦』の「吸血地獄」。
小中はまったく意識してなかったが、そう言われてビックリ、影響の深さを思い知ったそうな、
小中も高橋も塚本晋也もこの辺の世代はみんな『怪奇大作戦』にやられたのだ、
もっとも小中は「吸血地獄」も見直すとちょっと...とあくまでクール。
何度見直しても少年の日の感動に立ち返ってしまう妄想系高橋との違いがここでクッキリと。

かつてテレビで放映された選りすぐり心霊映像の数々、 パネラーたちのリアクションが今と比べてマジな重さがあるのが懐かしい...。
はたして現代の観客にとってこれらの映像は有効か...?
話は次第にコアな領域に。

イラク人質の首切り映像を見るか、見ないか。
高橋は、ついうっかり見てしまった友人から 「いや、世の中には本当に見ないほうがいいものがある」と真剣に止められたが、 そこまで言われると見なきゃいけない義務感がこみ上げてくるから困る。
友人が止めたのは何故か?
映像が残酷だからではない、殺す側のパッションが判ってしまうのが怖いのだ! 小中はここで大いに共感。
もっとも高橋が困るのは、この手のモノを見ると生理的に肉が食えなくなるからなのだ。
飯の邪魔されるのはほんと迷惑だ...

こういう人を前にするとホラーは本当に困る...
どうする? いや、戦争中にも「戦争怪談」なるものがある!
人々がスプラッターな肉塊と化すのが日常の戦場でも「怪談」の想像力は働いてしまうのだと、 高橋は「呪われたUボート」の話を披露
(*戦時中Uボートの船員が海原の中に幽霊を目撃したという話)
くそう、この話を岩淵先生にぶつければよかったとひとり悔しがる。
しかし、我々にはかつての世代のような、ほんとの恐怖のリアリティの体験はない... そこをどうするかと小中千昭の問題提起。
確かにロマン・ポランスキーのような体験を我々はもはやなし得ない。
我々にとって恐怖体験とはたかだか映像レベルの体験にしか過ぎないのかも知れない...
(*高橋氏は「やっぱりポランスキーが好きなんだよね」と突如告白。
曰く「作家には2種類いる、何かあった人とそうでない人だ。
前者は、ラングやポランスキー(及び初代ゴジラ製作陣もそうか、)であり、
どうしても彼らの作品に惹かれてしまうのだ」と)
だがその限界はキッチリ見定めた上で、我々は真摯に妄想するしかないのだ!
と高橋が半ばヤケクソな結論を言って、小中千昭のバッテリーはそろそろ限界に来ていた...
かくして第一部は小中脚本・鶴田演出の『ほん怖』から「かなしばり」を上映して終了。
これ、高橋が「やられた!」と真剣に嫉妬した一篇です。

中原翔子さんと新谷尚之が登壇。
さっきまで寝ていた新谷は、いきなり俎渡海城に改造した急須からウーロン茶を注いで回る意味不明のパフォーマンス。

絶対に自分のペースを崩さない男がここにいた...
(なお、この急須は大和屋竺愛用という大切な頂き物なのです)
で、ここで新谷、中原が何をしゃべっていたのか...

ごめん、疲労のせいか、完全に記憶が飛んでいます。
(*新谷氏は、前回のホラー番長上映記念のロフトイベントで、用意していた秘蔵ヴィデオを見せずじまいで終わってしまったので、
その時の雪辱を期すべくやって来たのだが、
いかんせん普段の生活のリズムと全く違う時間帯なので、ほとんど脳みそが回っておりません。)
そうだ!新谷さんが描いた『ソドム』の絵コンテを見せたりしてたのだ。

この絵コンテ、メイクの高田さんはじめ現場の女性に「かわいい!」って好評だったのだ。
「高橋さんって、すごくかわいい絵描くんですね!」
「いや、僕が描いたのはこれ」と下絵を見せると、
「ああ...」と。
近藤と安里が登壇 し、ここから『ソドム』のメイキング映像を流す。

第二部もやっとイベントらしくなってきたが...
近藤は翌日の郷里・名古屋凱旋を前にやたらスッキリしてます。

安里は『ケータイ刑事』『新耳袋』と監督業が順調につながっていきそうな予感が...
ごめん、蛇吉、キャサリン が何を話していたかも記憶が飛んでます...

ソドムは風邪で病欠。
(*思わぬ事態の連続で時間が押しまくり、二人の登場は、ほぼ時間一杯。二人のファンの方、申し訳ありません。)
そしてこの男 が『ミステリーゾーン』の小寺学なのだ。


ここからイベントはこの男のせいで思い出したくもない混乱に...
観客のみなさん、まことに失礼しました、小寺学に何かを期待してはいけない。期待する方がいけないのだ!
新谷尚之の秘蔵恐怖映像も凄かったよね。
(*「ゴレンジャー」「西成暴動のニュース映像」「洗濯バサミの人形劇」...)
あれがどうして怖いのか、判った人はほとんどいなかったと思う...
ああ、彼ら二人を世の中に伝えることの困難に、司会のしまだ宣伝相の顔は引きつり続けていた...
(*小寺氏秘蔵の某巨匠監督の秘蔵ヴィデオは、権利関係で公表できません。あしからず...)
そんなこんなで、目に余るような醜態をさらしつつも無事終了する事が出来た。
ソドム一味は一路名古屋へと、高橋氏はその後、フィルメックスで篠崎氏とトーク後、名古屋シネマテークへと、
(この模様は次号にて)
安里は、出来ちゃった結婚した妹の結婚式及び自作の凱旋公演のために沖縄へと、それぞれ旅立って行った。
(全くの余談ではあるが、ソドムチームの周りでやたらおめでたい話題が続いている。こんな呪われた作品なのに...)
(本文:高橋洋、写真/構成:近藤聖治)